(約 7,600文字の記事です。)
2018年版のウチヤマ リュウタ氏のZbrush教本が2022年6月にZbrush 2022対応の最新版として新発売されました。駆け足ではありますが全体を通読した感想や、私なりの「読者のZbrushレベル別のレビュー」をしてみました。
対象読者はZbrushユーザー、この本に興味のある人。
更新履歴
2022/08/09
執筆当時は書籍版のみでしたが、Kindle版がAmazonで公開されていることを知ったので過去記事を一部修正いたしました。
用語の定義
まずウチヤマ リュウタ氏の著書は現在までで3冊ある。
こちらの2018年版の教本を当記事では「第1巻」と呼ぶことにする。
そしてこちらの2022年6月発売の教本を「第2巻」と呼ぶことにする。
というのも両者はタイトルがかなり似ている上に、フルネームが長い!なので、端的に「第1巻」「第2巻」と表現した方が分かりやすい。また詳細は後述するが、第2巻のほうは、実は第1巻とは少し毛色が違い、名前が似ているけれど第2巻は決して第1巻の改訂版ではない、という感想があるため。
ざっと眺めた上で印象を固めた後、再び読み直してみたところ、何と、最初のページ(xiページ)の著者からの「はじめに」のコメントにとても上手くまとめられて書かれていた(笑)
2022/08/09 追記
今はKindle版も公開されてAmazonの試し読みで「はじめに」を読めるようになった。だがとても画像が小さい(笑)色々工夫して拡大した画像をここに貼っておきます。
さて、第2巻を3回通読してみて私の感じた印象としてはこんな感じ。
- 本当のZbrush初心者がこれを1冊目として始めると「ちょっぴりハードルが高くない?」(第1巻目のほうがシンプルで分かりやすいかも)
- どちらかというと「超初心者向け」というよりも「脱初心者、中上級者向け」という気がする
- Zbrush 2022対応の新機能を上手くワークフローに取り込む「新情報」が多くて良い
- ハードサーフェス周りのZModeler関連の情報が第1巻目より減った(ZModeler本を読んでね、ということかな?)
- 第1巻目で丁寧に書かれてあった基礎部分は割と省略気味かな(ページ数の都合かな?)
この感想、「はじめに」のコメントの要約とほぼ一緒になってしまった(笑)ということは、著者もまた苦渋の決断でそのように本書を作り上げたのだろう。そして実際、著者が意図した通りの印象を私は感じた。
以下、想定する読者のレベルごとに感想を分けて書こうと思う。というのも、読者の3DCGレベル、Zbrushレベルによって感想が大きく変わるため。なのでそれぞれの立場で考えた場合の感想を章ごとに分けて書こうと思う。
【Zbrush超初心者目線で】ちょっとハードルが高いかも
第2巻のこちら、Zbrushの右も左も分からない、今日からZbrushを始めます!という超絶初心者にとっては、結構厳しい評価になるかも知れない。
「ちょっと分かりづらい、細部が丁寧に書かれていない、つまづきやすい」かもしれないという印象だ。あくまでも「ちょっとだけ」ね。心配事というか。
理由はいくつかある。
ページ数の制限とボリュームのバランスゆえに
第1巻は288ページ、対して第2巻のページ数は384ページ。なんと約100ページも増えているのだ!厚さも2cmから2.7cmに増えている(ノギスで実測)。
体感としては2cmから3cmになったという印象で、結構ボリュームが増えた。
だが内容がそれ以上に増えている。Zbrush 2022の新機能を使った衣装の造型方法、帽子の格子化、3Dプリントによるアナログ化作業の情報などだ。そうするとどうしても第1巻に書いた「既知の、枯れた、ベーシックなスカルプト技術」については詳細を省略せざるを得ない。
書籍としては500ページも600ページも、無限にページ数を増やせない。紙媒体の刊行にはコストがかかる。デジタル書籍との違いだ。そうなるとどうしても基本的な部分は第1巻に譲るという判断をせざるを得ない。事実、ウチヤマ氏も「はじめに」に書いているように、第1巻と第2巻でバランスが良くなるかもね、という旨を示唆している。私も同じ感想だ。
なので、本当の初心者がZbrushに慣れるためには、本音で言えば第1巻のほうが分かりやすいと思う。
第1巻の特徴は、スカルプトとZModelerによるハードサーフェスモデリングの両者のバランスの良さだ。
- Zbrushの基本機能の使いこなし
- ページ数に余裕のある丁寧な解説
- キワモノ機能を使わないベーシックなスカルプト方法の紹介
- ZModelerを使った基本的なワークフローの紹介
これに対して第2巻はハードサーフェス部門の量が大幅に減っている。これは既刊のハードサーフェス教本に譲ったためだと思う。あとページ数の都合もあるだろう。
情報量が多すぎて取捨選択できないかも
第2巻では第1巻で紹介されていない様々な実践的な機能が紹介されている。
だがZbrushの超絶初心者にとってはまだ「情報の取捨選択」ができていないので、情報の洪水、テクニックと表現と手順の洪水に流されて嫌になるかもしれない、というリスクを感じる。
中級者にとっては「これはためになる!」情報が多いのだが、情報の取捨選択ができない初心者にとっては洪水なのだ!
中級者にとっては「これはためになる!」情報が多いのだが、情報の取捨選択ができない初心者にとっては洪水なのだ!
Zbrush 2022以前を知っている中級ユーザーにとって見れば、Zbrush 2022の新機能をワークフローに取り入れて紹介しているこの書籍の情報は有益なのだが、超絶初心者にはちょっと情報量が多すぎるかも知れない。
その点でも、本当のZbrush初心者は第1巻のほうを立ち読みする価値があると思う。どちらが読者にとってしっくりくるかは、もう立ち読みしてもらうしかないだろう。(予算があるなら両方とも買って実践すべし!買うだけじゃなくて「実践」することが重要ね。)
超絶初心者でも第2巻を選ぶメリット
理想を言えば第1巻を実践した後に第2巻を実践すれば完璧だろう。Zbrushオンリーでハードサーフェスモデリングもこなしたいならばハードサーフェスモデリングの本も実践すべきだろう。
……、結局3冊全部やることになるじゃないか!(笑)
その価値はあると思うが、現実問題、予算などの都合で「どうしても1冊だけ」という場合には、第2巻が最良ということになる。
第1巻ほど基本部分が手厚くはないが、あとは自分で実践するなりWebで情報収集するなり、無料で手に入る情報で各自で知識を補ってもらうことを前提とすれば、第2巻の価値はかなり上がる。要するに読者自身の努力によって「超絶初心者から初心者まで自主練でレベルアップさせることができるならば」、第2巻からの価値をすぐに享受できる、というわけだ。
またZbrush 2022の便利機能も理解できるので、応用の幅が広がる。要するにどれだけZbrushで造型に打ち込むか、という覚悟の度合いによって、これ1冊で済ますか、ゆっくり確実に2~3冊で基礎を固めるか、の違いになるだろう。
ただし、第2巻は本当に情報量が多いので、覚悟して取り組むべし!
初心者編はこれにて終了。次は中級者向けのレビューです。
【Zbrush中級者】Zbrush 2022の実践ワークフローの学習
Zbrush中級者にとっては、実は上記の「超絶初心者にとってのデメリット」が、逆にメリットになる。既存の基礎についてのページが少なく、Zbrush 2022を用いた実践ワークフローの情報量が多いので、勉強になる情報が多めだから。
また中級者になれば「自己流の完成された一通りのワークフロー」を持っているはずだが、ここで他者のワークフローを学ぶというチャンスが手に入る。これはなかなか難しいことで、プロ同士でも手の内を明かす機会は少ないので、他者のワークフローを丁寧に押さえることは「新たな知見」を手に入れられる貴重な機会だったりする。
また時折書かれている「コラム的な内容、ヒント、Tips」なども中級者にとって嬉しい。今まで気付かなかった内容が書かれていて勉強になる。
Zbrush 2022までの変化のおさらい
Zbrushは 2020から2022までで、色んな部分が変化した。ZModelerに関する新機能の追加なども大きい。できないことができるようになった部分も多いので、第2巻で出てきたテクニックは実は色々と勉強になる。
またレガシーな部分でも色々と学びが多い。例えば、髪の造型時にスカルプトリスプロの実践的な導入方法などは役に立つと思う。トポロジを無視してデジタル粘土として造型に集中できるのがスカルプトリスプロモードの特徴だが、髪の仕上げ時にその使い方が上手く書かれている。
他にもClothブラシ関連を用いた衣類のシワの作成や、スニーカー周りの色々なテクニックはとても勉強になる。もちろん1つ1つのテクニックはWeb上で集めることができる情報だが、第2巻のように一連のワークフローの中に色々と入っているほうが学びやすい。書籍のメリットは「色んな情報がひとまとめになっていて、その情報の密度や正確さが一定以上あること」だと思うのだ。なのでwebで情報をかき集めるよりも学習効率がいいのが本という媒体のメリットだ。
そしてこのあたりの情報量の多さがページ数の多さになっており、超絶初心者にとっては「消化不良の素になる情報の洪水」とも言える。逆に中級者には貴重な情報源になったりする。第1巻に書かれているテクニックも多いが、第2巻の造型のほうが複雑さが上なので、より実践的なワークフローに近いと言える。
中級者には学びが多いので、もう立ち読みして考えて!としか言いようがない。あるいは買ってみて(略
【プロ目線】Zbrushでできる表現力の豊かさと手順の確認
例えばフィギュア造形師・原型師だったり、ゲーム用キャラクターモデリングのノーマルマップ用のZbrush利用など、プロ目線で見ても、第2巻の価値は十分ある。
例えばポリグループ関連の下処理については一見すると地味だが、ワークフロー上では結構重要であり、かなり丁寧に書かれているので勉強になるだろう。
また繰り返しになるが、Clothブラシ周り、スニーカー周り、格子状の帽子周りの情報が役に立つだろう。特にIMMブラシを用いたスティッチ表現などは応用範囲が広い。実践用途かZbrush能力のパフォーマンス用途かに関わらず、現在のZbrushの表現力の確認などに役に立つだろう。
第2巻ではカーブブラシを使った造型が多いので、カーブブラシの使いこなしの技術向上に役立つだろう。
Zbrushでは基本的にZRemesher以外のリトポロジーはあまり得意ではない。水密メッシュをベースとして押し出したり凹ましたりして形を作ることが基本であるため、形ができてからのトポロジ変更はあまり得意ではない。第2巻ではTopologyブラシを使って「トポロジから形を作る実践例」をいくつか紹介しているので、Zbrush内で簡単な造型をトポロジから作る手段を知っておくのも勉強になる。もちろん他のポリゴンモデリングツールで作るという手もあるが、Zbrushのみでサクッと終えたいという小回りの利く知識を仕入れておくことは成長にとって重要だ。
もしZbrushを使ったプロの人でも、Zbrush 2022の基本機能のおさらいとして第2巻を一通り試すことで、色々な学びがあると思う。
まぁプロならば最新の情報を貪(むさぼ)るように仕入れるのが当たり前という気がするので、第2巻は必読という気もする。。。
フィギュア用途の分割と3Dプリントについて
この章については、読者の立場によって評価が変わる。
というのも、3DCGをゲーム製作や静止画・動画製作などの「デジタル完結用途」で使う場合、分割や3Dプリント(物質として具現化すること)に関する情報が不要であるため。私の場合もデジタル完結なので、分割や3Dプリントの情報は「知識として」学習教材にはなるが、あくまでも読み物程度の流し読みになってしまう。なのでこの章のレビューはちょっとできない。
なお、当然ながらフィギュア用途や3Dプリント目的でZbrushを使う人にとってはとても有益な情報だと思う。
【結論】情報量が多く、じっくり実践したい1冊
Zbrush関連の書籍としてはかなり情報量が多い1冊になっていると思う。初心者向けと言うよりは脱初心者以上の中級者向けだが、基本的な部分は押さえられている。初心者であっても基礎部分を自分なりに情報を補うことができる人(あるいはその覚悟がある人)ならばこの1冊からZbrushをスタートすることもできるだろう。
もしこの第2巻が難しいと感じたならば第1巻からの学習をオススメしたい。
中級者以上にとってはZbrush 2020~2022までのZbrushの進化した機能を、具体的な実践ワークフローと共に復習できる良い教材だと思う。
ただし初心者・中級者いずれにとっても、実際にこの書籍の内容を手を動かして実践するとなると、結構な学習時間数になると思う。
その代わり、情報量が多い分だけ学びも多いと思う。
Zbrushを使いこなしたい!と思うならば是非とも一通り手を動かして実践したいと思える1冊だ。
というわけで、最新のZbrushの機能を生かしてZbrushを学びたいと思う人にはオススメの1冊です。
謝辞
このレビュー記事の執筆に際し、株式会社ボーンデジタルのS様およびH様より書籍をご恵贈頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
あくまでも3DCGを扱う者として、Zbrushユーザーとしての目線で、初心者目線、中上級者およびプロ目線での、いいところとちょっと悪いところなどを書かせて頂きました。
著者のウチヤマ様が一生懸命に文章を考え、図を用意して、そうやって結晶化した「書籍」です。情報量の多さと丁寧さがとても良いところです。ですので是非ともいいところを宣伝させて頂きたいと思いました。
ただしべた褒めばかりというのも内容の信憑性に欠けるため、私の感じた「残念なところ」も包み隠さず指摘させて頂きました。
株式会社ボーンデジタル様、ウチヤマ様、とても良い書籍を世に送り出して下さり誠にありがとうございます。
このレビューが多くの皆様のお役に立つことを願っております。
大和 司
今回の創作活動は約3時間30分(累積 約2,848時間)
(827回目のブログ更新)
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